掲載日: 2023年9月1日更新
ずっと昔から人々のあいだで語られ、伝えられてきた話に伝説や昔ばなし、世間話があります。文字ではなく、口頭で伝わったことから「口承文芸(こうしょうぶんげい)」などと呼ばれます。「桃太郎」や「こぶとりじいさん」などは特に有名です。「囲炉裏端やたばこはさみ、たばこのしの作業中に昔ばなしを聞いた」という高齢のかたもいらっしゃるのではないでしょうか。
(写真右:囲炉裏、写真中央:たばこはさみ、写真右:たばこのし)
昔ばなしにはよく動物が登場します。イヌ、サル、ウマ、ヘビなど。その中で人をだますものとしてタヌキやキツネが出てきますが、大越町牧野と船引町門沢の境、「大木(おおき)の坂」には多くのキツネがいて、キツネに馬鹿にされたという話がいくつかあり、その中から『大越町史・民俗編』に収録されている「栄太郎さんとキツネ」という話を紹介します。
牧野の岡田(おかだ)に、栄太郎という猟師がいた。ある日、いつものように猟に出たが、ウサギ一匹どころか小鳥も捕れなかった。おまけに日も暮れてきたので、あきらめて家に帰ってきた。家の者たちはいつになくやさしい声で、
「疲れたっぺから、早く風呂に入りなんしょ」
と言うので、栄太郎さんはさっそく風呂に飛びこんだ。湯加減もいいあんばいで、つい鼻歌も飛び出した。
ある人が用足しから帰る途中、どこからか気持ちよさそうな鼻歌が聞こえてくるので、今時分(いまじぶん)なにごとだべと思って、声のする方に近づいてみたら、鉄砲持った男の人が田んぼの中でガラッポ、ガラッポと水こねをしていた。
「何してんだい、こんな夜中に、田ン中で」
「湯に入っていんだわい。いいあんべいだから、あんだも入っていかねがい」
と言っていた。よく見たら栄太郎さんのようであった。
「湯なんかではねぇぞい。そこは田ン中だぞい」
って言うと、栄太郎さんは我れに返って田ン中から上がってきた。あとでその話になると、栄太郎さんは、
「いやあ、あんどきはうまくキツネに馬鹿にされっちまって」
と、頭をかきかき、人に語っていたそうな。
昔ばなしをじかに聞いてみませんか。入場は無料ですので、ぜひご来場ください。
令和5年度田村市歴史民俗資料館行事 昔ばなし
日時:令和5年9月30日(土)午後1時30分~
場所:田村市歴史民俗資料館(船引郵便局から片曽根山方面へ車で1分)
入場料:無料
語り:船引民話語り部の会
(たむら市政だより令和5年9月号より。内容は当時のもの。)
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